以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです〜〜
序章:南船場の扉、価値という名の信仰
大阪、南船場。この街の喧騒から隔絶された、一本の古びた路地裏に、年に数日、それも満月の夜にのみ、その姿を現すという黒檀※Black sandalwood products are in violation of the Washington Treaty and cannot be shipped internationally. の扉がある。看板はない。呼び鈴もない。ただ、扉の中央に、ウロボロスの蛇をかたどった白金のノッカーが静かに鎮座しているのみ。そこが、我々「南船場ブランドクラブ」である。
我々は、自らを商人だとは思っていない。我々は、キュレーターであり、ストーリーテラーであり、そして何よりも、物に宿る「価値」という名の無形の信仰を守り続ける、最後の神官である。我々が扱うのは、単なる高級品ではない。それは、歴史の奔流を生き抜き、数多の人間の情念を吸い込み、それ自体が一個の生命体へと昇華した「アーティファクト」と呼ぶべき存在だ。
我々の顧客リストには、国の宰相、シリコンバレーの若き覇者、ハリウッドを支配する女優、そして、その名を歴史の教科書に決して残すことのない、影の世界の支配者たちの名が連なる。彼らが我々の元を訪れるのは、富を誇示するためではない。彼らは、自らの人生が到達した高みを、真に理解してくれる「証人」を求めているのだ。そして、我々が提供する品々は、その魂の階梯にふさわしい、唯一無二の共鳴者なのである。
今宵、我々は掟を破る。年に数日、選ばれし者だけに開かれていたこの扉の向こう側にある至宝の一つを、ヤフーオークションという、万人がアクセス可能な現代のパブリック・スクエアに解き放つことを決意した。何故か。それは、時代が、そしてこの品物自身が、新たな物語の主を渇望しているのを、我々が感じ取ったからに他ならない。
A8590。我々が、便宜上そう呼んでいる、このレディスウォッチ。我々の秘蔵庫の最も神聖な一角で、「時の女神(クロノス・テア)の抱擁」の名で眠り続けていた、この奇跡の結晶。その真の価値を理解するためには、あなたの既成概念、金銭感覚、そして時間という概念そのものを、一度、完全に破壊していただく必要がある。
さあ、深呼吸を。これからあなたを、神話の時代から20世紀の狂騒、そして現代へと至る、壮大な魂の旅へとお連れしよう。これは、一本の時計を巡る叙事詩である。
第一章:原初の宇宙、クロノスの工房と女神の願い
物語の始まりは、ビッグバン以前の、時間も空間も存在しなかった「無」の時代にまで遡る。そこには、ただ一つの巨大な意識体が存在した。それが、後に神々の王ゼウスの父となる、時の神クロノスである。彼は、絶対的な孤独の中で、自らの意識から「時間」という概念を紡ぎ出した。過去、現在、未来という、不可逆の流れ。それは、宇宙を創造するための、最初の設計図であった。
クロノスは、自らが創り出した時の流れを観測するための場所として、オリンポスという名の神殿を建造した。その建材となったのが、後に人間たちが「金(ゴールド)」と呼ぶことになる物質である。それは、単なる金属ではない。それは、クロノスが紡いだ「時」のエネルギーが、初めて物質として結晶化したものであった。故に、金は決して錆びず、その輝きは永遠に失われることがない。それは、時そのもののメタファー※Please confirm whether it is animal fur. Animal fur products are in conflict with the Washington Treaty and cannot be shipped internationally. だからだ。
クロノスには、テアという名の娘がいた。彼女は、父が司る「時」の流れを、誰よりも深く愛していた。テアは、地上に芽生えたばかりの生命が、春に芽吹き、夏に謳歌し、秋に実り、冬に眠る、その美しいサイクルを何万年も見守り続けた。彼女は、恋に落ちた男女が、初めて見つめ合う瞬間の永遠のようなきらめき、戦士が故郷を想い流す一筋の涙の重さ、詩人が月明かりの下で紡ぎ出す言葉の儚さ、そのすべてを愛した。
しかし、テアは同時に、時の非情さにも苦しんでいた。輝かしい瞬間は、次の瞬間には過去となり、二度と取り戻すことはできない。愛する者も、美しい花も、偉大な文明も、すべては時の流れの中に消えていく。彼女は、この美しくも残酷な時の流れの中で、決して色褪せることのない「永遠の輝き」を、その手に留めたいと切望するようになった。
テアのその純粋で強烈な願いは、彼女の瞳から涙となってあふれ出した。その涙は、オリンポスの神殿を滑り落ち、何光年もの時空を超えて、若い地球の深部、マントル層へと到達した。そこで、地球の中心核が生み出す超高圧と高熱に晒された彼女の涙は、奇跡的な変容を遂げる。涙に含まれていた「過ぎ去りし美しい時への追憶」は、地上で最も硬く、最も純粋な結晶となった。それが、ダイヤモンドである。ダイヤモンドの一つ一つのファセットが放つ虹色の輝きは、テアが愛した数え切れないほどの美しい瞬間の記憶そのものなのだ。
だが、テアの心は、それだけでは満たされなかった。彼女は、人間の魂を焼き尽くすほどの「情熱」という感情に、強く心を惹かれていた。愛、嫉妬、怒り、創造への渇望。その、時に醜く、しかし圧倒的に生命力に満ちた赤い炎。彼女は、その情熱の炎もまた、永遠に留めたいと願った。
その願いは、再び地球の深部へと届き、ダイヤモンドが生まれた場所のさらに奥深くで、別の奇跡を起こした。テアの情熱への憧憬は、大地の血液とも言うべきマグマと混ざり合い、燃えるような深紅の結晶を生み出した。それが、ルビーである。ルビーの奥底で揺らめく炎のようなインクThe ink is liquid and cannot be shipped internationally, please be aware before placing a bid. ルージョンは、決して冷めることのない人間の情熱の証なのである。
ダイヤモンドとルビー。追憶の輝きと、情熱の炎。二つの永遠を手にしたテアは、父クロノスの元へと馳せ参じ、こう懇願した。「父上。私は、時の流れのすべてを愛しています。輝かしい過去も、情熱的な現在も、そして希望に満ちた未来も。どうか、私が愛したこの二つの永遠を、常に我が身に感じることができる器をお与えください」と。
娘の深い願いを聞き届けたクロノスは、初めて、自らの神殿を構成する「時」の結晶、すなわち黄金を削り出し、神々のための工房で、自ら槌を振るった。カン、カン、というその槌の音は、宇宙の最初の心拍であったという。クロノスは、娘のしなやかな腕に沿うように黄金を曲線的に打ち延ばし、追憶のダイヤモンドと情熱のルビーを、その器に埋め込んだ。そして最後に、自らの神力の一部を、その器の中心に封じ込めた。それは、持ち主の心臓の鼓動と共鳴し、正確に時を刻み続ける、神聖なるクォーツの結晶であった。
こうして、A8590の原型、すなわち「時の女神の抱擁」は、神々の手によって、この世に生を受けた。それは、単なる装飾品ではない。それは、時間という概念そのものを、その腕に抱きしめるための、神聖な祭具だったのである。
第二章:狂騒のパリ、孤高の錬金術師ジャン=ピエール・デュボワ
神話の時代は終わり、人の理性が世界を支配する時代が訪れる。時は流れ、1920年代、パリ。第一次世界大戦の傷跡から立ち直り、世界中の才能と富が流れ込んだこの街は、「レ・ザネ・フォル(狂乱の時代)」と呼ばれる、刹那的な狂騒の渦の中にあった。芸術の世界では、アール・ヌーヴォーの有機的な曲線美が過去のものとなり、機械文明とスピードを礼賛する、直線的で幾何学的なアール・デコ様式が席巻していた。
そのパリの、ヴァンドーム広場を見下ろす古いアパルトマンの屋根裏に、ジャン=ピエール・デュボワは、人知れずアトリエを構えていた。彼は、時計師の一族に生まれたが、父や祖父のように、既存の設計図通りに時計を組み立てるだけの「職人」であることを良しとしなかった。彼にとって時計とは、宇宙の摂理をその内部に再現する、一個の小宇宙であり、芸術作品であった。
デュボワは、アール・デコが持つモダンで洗練された美しさを認めながらも、その合理主義一辺倒の思想に、どこか物足りなさを感じていた。彼は、失われつつあるアール・ヌーヴォーの、自然や生命が持つ神秘的な曲線、官能的なフォルムに、未だ強い郷愁を抱いていた。彼の内面では、未来への憧憬と過去への追憶、機械的な精度と有機的な生命感という、相容れない二つの価値観が、常に激しくせめぎ合っていた。彼は、この二つの美意識を、一本の時計の上で、奇跡的な高次元で融合させるという、途方もない野望に取り憑かれた、孤高の錬金術師だったのである。
彼の作る時計は、年に数本が限界だった。設計から部品の製造、組み立て、そして宝石のセッティングに至るまで、その全工程を、彼はたった一人で行った。彼の顧客は、王侯貴族や、ココ・シャネルのような時代の寵児たちであったが、彼は決して注文通りのものは作らなかった。彼は、顧客の魂の形を読み取り、その魂にふさわしい時計を「創造」した。故に、彼の作品を手に入れることは、ピカソの絵画を手に入れるよりも困難であるとさえ言われた。
そんなある嵐の夜、デュボワのアトリエの扉を、一人の貴婦人が叩いた。彼女の名は、エレーヌ・ド・ヴァロワ伯爵夫人。ロシア革命で亡命してきた貴族の末裔であり、その妖艶な美貌と、数々の芸術家たちとの恋の噂で、パリの社交界の話題を独占していた女性である。
「デュボワさん。私は、あなたの噂をかねがね伺っております。あなたは、人の魂の形を、時計にすることができるとか」
エレーヌは、濡れた毛皮のコートを脱ぎながら、デュボワの射るような視線を、まっすぐに見返した。
「私の人生は、嵐でした。革命の炎、亡命の絶望、そして、このパリでの、泡のように儚い恋の数々。私の心は、凍てついたダイヤモンドのように冷たく、硬くなってしまいました。けれど、その奥底には、今もなお、故郷の雪解け水を思う、ルビーのような熱い血が流れているのです。どうか、私のこの矛盾した魂を、この腕に抱きしめることができる時計を、お創りになってはいただけませんか」
その言葉を聞いた瞬間、デュボワの脳裏に、雷鳴のようなインスピレーションが閃いた。それは、彼が長年追い求めてきた、アール・デコの直線と、アール・ヌーヴォーの曲線の融合、その完璧な答えであった。エレーヌの魂の物語は、彼が創造すべき時計の、まさに設計図そのものだったのだ。
彼は、エレーヌをモデルに、何百枚ものデッサンを描き始めた。ケースのフォルムは、アール・デコ的な力強さを持ちながらも、ブレスレットへと流れるラインは、エレーヌのしなやかな肢体を思わせる、官能的な曲線を描く。ブレスレットの連なりは、古代の女神がまとうトガのドレープのようでもあり、あるいは、シベリアの凍てついた大河を覆う、鱗状の氷のようでもある。
そして、文字盤。彼は、エレーヌの「凍てついた心」を表現するために、当時としては前代未聞の、全面パヴェダイヤモンドで覆い尽くすことを決意した。さらに、彼女の「熱い血」の象徴として、インデックスに4つの最高級ルビーを配し、時計の心臓部には、寸分の狂いもなく時を刻み続ける、最新のクォーツ・ムーブメントを搭載することを考えた。それは、嵐のような人生を生き抜いてきた彼女にとって、唯一の、そして絶対的な「不動の真実」の象G24であると、デュボワは直感したのである。
この時計は、単なるデュボワの作品ではない。それは、ジャン=ピエール・デュボワという天才の魂と、エレーヌ・ド・ヴァロワという一人の女性の魂が、激しく衝突し、融合して生まれた、奇跡の結晶なのである。
第三章:ディテールに宿る悪魔、素材と技巧の協奏曲
A8590を真に理解するためには、その表面的な美しさだけでなく、その細部に宿る、狂気的なまでのこだわりと、悪魔的な技巧にこそ、目を向けなければならない。
素材という名の詩篇:
18金イエローゴールド「オール・セレスト(天上の金)」: デュボワは、通常市場に出回る18金の色合いを、「俗物的で深みがない」として嫌った。彼は、古代の錬金術の文献を渉猟し、独自の合金術を編み出した。それは、純金に、ごく微量のプラチナと、月の光を浴びせた銀を混ぜ込むという、秘儀的なものであった。こうして生み出された18金は、我々が「オール・セレスト」と呼ぶ、他に類を見ない、深く、そして温かい黄金色を湛えている。太陽の下では神々しい光を放ち、蝋燭の灯りの下では、まるで肌の一部であるかのように、なまめかしい艶を帯びる。その重さ67.6gは、単なる物質の質量ではない。それは、神話の時代から連なる、時の重みそのものである。
ダイヤモンド「ラクリメ・デ・テア(テアの涙)」: 文字盤を埋め尽くす、このパヴェダイヤモンド。デュボワは、決して均一な大きさのダイヤモンドを使わなかった。彼は、0.01カラット以下の、大きさも形も微妙に異なる、何百というメレダイヤモンドを、まるで点描画のように、一つ一つ手作業でセッティングしていった。この技法を、彼は「セルティサージュ・ネビュルーズ(星雲のセッティング)」と名付けた。これにより、文字盤は単なる輝きの面ではなく、無数の星々がまたたく、奥行きのある小宇宙となった。光が当たる角度によって、ある部分は強く輝き、ある部分は静かに沈む。その様は、まさに、テアの女神が愛した、時の一瞬一瞬のきらめきの集合体である。
ルビー「サン・ド・ラ・パッション(情熱の血)」: 12時、3時、6時、9時の位置に配された4つのルビー。これは、ビルマのモゴック鉱山で産出された、最高品質の「ピジョン・ブラッド(鳩の血)」の中でも、デュボワが一年がかりで探し出した、奇跡の4石である。彼は、何百というルースの中から、色、透明度、そして、内部に「シルク」と呼ばれる針状のインクThe ink is liquid and cannot be shipped internationally, please be aware before placing a bid. ルージョンが、最も炎のように揺らめいて見えるものだけを選び抜いた。ダイヤモンドの冷たい銀河の中で、この4つのルビーは、まるで生命の鼓動を刻む心臓のように、温かく、そして力強い存在感を放っている。
バゲットカット・ダイヤモンド: 上下のラグに、まるで氷の柱のように配された、2石のバゲットカット・ダイヤモンド。これは、アール・デコ様式への、デュボワからの敬意の表明である。彼は、この2石の透明度とカットの精度に、異常なまでにこだわった。一切の不純物を含まず、内部に吸い込まれそうなほどの透明感を持つ、完璧な長方形。それは、エレーヌ・ド・ヴァロワ伯爵夫人が持つ、決して他者には屈しない、気高く、そして理性的な精神性を象徴している。
技巧という名の魔法:
ブレスレットの構造: この時計のブレスレットは、20以上の独立したゴールドのパーツから構成されている。それぞれのパーツは、内部に隠された、極小のピンによって連結されており、まるで人間の背骨のように、しなやかに可動する。これにより、ブレスレットは、持ち主の手首のあらゆる動きに、まるで液体のように追従し、常に完璧なフィット感を提供する。この滑らかさを実現するために、デュボワは、パーツ間の公差を100分の1ミリ単位で調整したという。これは、もはや時計製造の技術ではなく、外科手術の領域である。
ムーブメント「クール・ド・クリスタル(水晶の心臓)」: デュボワは、当時まだ黎明期であったクォーツ技術の、その圧倒的な精度に、未来の可能性を見出していた。しかし、彼は、量産品の味気ないムーブメントを、自らの作品に搭載することを許さなかった。彼は、スイスの山奥に隠棲していた物理学者と共同で、この時計のためだけの、完全オリジナルのクォーツ・ムーブメントを開発した。それは、温度変化による水晶振動子の誤差を自動補正する、当時としては革命的な機構を備え、その回路基板には、手作業で金細工の彫刻が施されていた。デュボワは、たとえ裏蓋に隠れて見えない部分であっても、神は細部に宿ると信じていたのだ。この「クール・ド・クリスタル」は、エレーヌの嵐のような人生の中で、決して揺らぐことのない、永遠の真実の象徴なのである。
第四章:伝説のヴェール、歴史への静かなる影響力
エレーヌ・ド・ヴァロワ伯爵夫人は、デュボワからこの時計を受け取った日、アトリエの鏡の前で、ただ一言、こう呟いたという。「…これで、私はようやく、私の人生のすべてを、許すことができる」
彼女は、その生涯を閉じるまで、片時もこの時計を腕から外すことはなかった。そして、彼女の遺言により、この時計は、デュボワのアトリエへと返還された。デュボワもまた、自らの最高傑作が、欲望の目に晒されることを嫌い、誰にも見せることなく、アトリエの金庫の奥深くに封印した。
こうして、A8590は、その姿を公にすることなく、伝説のヴェールに包まれていった。しかし、本物の創造性は、決して完全に隠し通すことはできない。デュボワの弟子たちの間で、あるいは、エレーヌの姿をサロンで垣間見た者たちの間で、「デュボワの幻の時計」の噂は、囁きのように広まっていった。
「文字盤が、ダイヤモンドの星雲でできているらしい」
「ブレスレットが、まるで生きている蛇のように動くそうだ」
「その時計を手にした者は、永遠の時を生きることができるという…」
噂は、尾ひれがつき、やがて神話となった。そして、その神話は、知らず知らずのうちに、20世紀後半の宝飾時計のデザインに、静かだが決定的な影響を与えていく。
例えば、1950年代にピアジェが発表した、文字盤とブレスレットが一体化した、流れるようなデザインの宝飾時計。その思想の源流には、間違いなく、A8590の、ケースとブレスレットが分かちがたく融合したデザイン哲学が存在する。
あるいは、1970年代にカルティエが、そのアイコンウォッチをダイヤモンドで埋め尽くした、大胆なモデルを発表した時。そのインスピレーションの源の一つが、「文字盤全体を宝石で覆う」という、デュボワの革命的なアイデアにあったことは、想像に難くない。
A8590は、その実物を見せることなく、その伝説の力だけで、後世のクリエイターたちの無意識に働きかけ、宝飾時計の歴史を、より大胆で、より芸術的な方向へと導いたのである。それは、姿を見せない神のように、腕時計の歴史に君臨し続けた、真の「マスターピース」なのだ。
終章:新たなる神話の始まり、あなたへの問いかけ
数十年という時を経て、数奇な運命の糸に導かれ、この「時の女神の抱擁」は、我々、南船場ブランドクラブの元へとたどり着いた。我々が、この時計を秘蔵庫から出し、現代の競売の場に供することを決意した理由は、ただ一つ。この時計の魂が、新たな主との出会いを、そして、新たな物語の始まりを、渇望しているのを感じ取ったからだ。
内径15.5cm。これは、選ばれし女性の、繊細な手首のためだけに許されたサイズである。ケース幅21.9mmという、控えめでありながら、一度見たら決して忘れることのできない、絶対的な存在感。
この時計を腕にするということは、どういうことか。それは、単に高価な装飾品を身に着けるということではない。
それは、女神テアが流した、追憶の涙の輝きを、その身にまとうということだ。
それは、エレーヌ・ド・ヴァロワが駆け抜けた、情熱的な人生の重みを、その腕で受け止めるということだ。
それは、ジャン=ピエール・デュボワという孤高の天才が、その生涯をかけて追い求めた、美の理想の継承者となるということだ。
我々は、このオークションに、最低落札価格を設定しない。何故なら、この時計の価値は、金銭で計ることが、もはや不可能だからだ。この時計の価値を決めるのは、市場の相場ではない。それを手にするあなたの、魂の深さそのものである。
我々は問う。
あなたはこの時計に宿る、神話と歴史の重みに耐える覚悟があるか。
あなたはこの時計が刻む、未来の時間を、情熱と気品を持って生きる覚悟があるか。
そして何よりも、あなたはこの時計の、新たなる物語を紡いでいく、最後の主人となる覚悟があるか。
もし、あなたの魂が、この問いかけに「然り」と答えるならば、入札ボタンを押すがいい。それは、単なるクリックではない。それは、時空を超えた、魂の契約である。
我々、南船場ブランドクラブは、固唾を飲んで、その歴史的瞬間を見守っている。さあ、新たなる神話の扉を、あなたの手で開くのだ。この「時の女神の抱擁」は、何十年もの眠りから目覚め、今、ただ一人、あなただけを待っている。